救急救命士の現実 パラメディック119〜すべては救命のために〜
パラメディック119救急救命士の現実救急車が来ない日 Last up 2006.2.1

救急救命士の現実
救急車が来ない日

 2006年になりお正月ムードも過ぎ去った1月の中旬、今年も新年からひどい勤務が続いていました。12月は出場件数がもっとも多くなる時期で忘年会などなどアルコールからみの出場に振り回される。年が明ければ少しは落ち着くはずだ…、そう言い聞かせて頑張っていたのに、1月に入ってからも夜中まで出場しっぱなしの勤務ばかりでした。この日も私たちの隊は日が明けてから3件ほどの出場を経てほぼ寝ていない状態でした。交替の時間になってもうヘトヘト、交替の時間になると本当に安心します。とりあえず出場しなくていいのです。いつ飛び出していくかと思っているそれがないのとでは机で同じ仕事をしていても感覚が全く違います。さあ、これで出場はしなくていいんだ、昨日の溜まったしまった14件分の出場記録の生理をしよう…ああ良かった!これでゆっくり机に座って仕事ができる!十数件もの出場をした時には事務仕事のほとんどが手付かずになります。帰署して数分でまた出場を繰り返しますからね。帰署できればまだいい方で下手すれば無線で呼ばれて連続出場、事務仕事は救急車じゃできません…。交替した時点ですでに勤務時間は24時間を越えているのですが、まだ事務仕事をしなくてはいけません。私たちには人権ってないのかな?

 「あれ?12件目のおばあちゃんって腰が痛いんでしたっけ?」「それは10件目のばあさんだよ、12件目のばあさんは大腿部が痛いんだよ」「あれ?そうでしたっけ?それってA町のばあさんですよね?」「違うってそれはK町だよ」もう訳が分からないや…眠たい目をこすりながらこんな感じで事務をしていると、
消防隊「お疲れ様でした。すみません、お先に失礼します…。救急隊、ごめんね、お先!」
救急隊「お疲れ様でした。」
くぅ、恨めしい…。ビ〜ビ〜ビ〜!消防署に出場指令が轟く、勤務中に聞くと何をしていても走り出すこの音も、明け番の今の私たちには関係ありません。24時間に及ぶこの出場ベルからやっと開放されたのです。申し送った今日勤務の救急隊がとんでもないところまで出場していきました。
救急隊員「ひゃ〜、H町まで出場ですって?何キロありますかね?」
機関員「遠いね〜、7,8キロってところじゃないの?現着まで15分かかるかな?」
救急隊員「朝っぱらからこれだもんなぁ、この町は異常ですよね…」
機関員「だよなぁ、でも10分15分じゃいつものことじゃない」
座って仕事ができる。机に座って仕事をさせてもらえばこんなに仕事って進むのになぁ。ピ〜ピ〜!無線の内容が消防署に流れる。「F救急隊出場、S町○丁目…」
救急隊員「ひゃ〜F救急がS町までですって、いくつの消防署を通り越すんですかね?」
機関員「すごいね、10キロじゃ聞かないよ、現着まで下手すりゃ30分かかるんじゃないの??」
ああやっと終わった終わった。もう11時を回っていました。やっと昨日の事務処理が終わった。さあ、帰る支度しよう!もう27時間も消防署にいるよ、早く帰ろう!ビ〜ビ〜ビ〜!出場ベルが鳴り響いた。救急隊は出場中、火事か!?「消防隊出場Y町○丁目…なお本件にはW救急出場中、遅延のため。」私たちの消防署の管轄区域から救急要請があったのですが、周辺の救急隊が全て出場中だったため遠くから来るW救急隊が到着までそうとうの時間を要すため、消防隊に応急処置、対応をさせるための出場指令でした。
救急隊員「W救急隊?どこから来るんですか?」
機関員「○町にある救急隊だよ、20キロ以上あるんじゃないの?すごいね…」
指令番地をメモした消防隊長が半笑い呆れ顔で出場して行きました。
消防隊長「現着まで40分かかるよ、重症の方だったらどうするんだろう?消防隊の装備じゃ何にもできないよ…」
消防車がサイレンを轟かせて出場していきました。
救急隊員「あ〜あ…これじゃ誰一人助かりやしないや…」

 この日、救急出場がぐちゃぐちゃでした。こっちから呼ばれあっちから呼ばれ、出場可能になった救急隊をとにかく向かわせなくちゃいけない状態、待機隊なんてどこにもなく、病院や帰署途上からさらに無線で再出場させる状態、119番されても救急車がない状態、司令室も「よし!この隊が出場可能になった!…けど20キロもあります。他の隊は??ない…一番近い出場可能隊が20キロの隊…」だからW救急隊がこちらに向かっているのです。後日、ここに出場した消防隊長に聞いたところ、W救急隊は40分以上の時間をかけて現場到着したそうです。ただ救いだったのは消防隊長が心配したような重症な傷病者ではなくケロっとしている方だったようです。消防隊長が「W救急隊が20キロもの道のりをこちらに向かっているので私たち消防隊が来ました」と説明したところ、「そうですか、じゃあ待ってます」と余裕のある回答を得られたとか。
消防隊長「重症の患者で意識がなかったりしたらゾっとしちゃうよね、もしそんな現場だったら家族は俺たちを許すかね…」
改めて説明しておきますが、私が勤務している町は日本の大都市です。人口は密集しそのため消防署も救急隊の数も日本の町ではそうとう恵まれた充実の町です。何キロ行っても山と畑しかない町ではありません。

 私は救急隊員をやっていますので、救急隊の過酷な勤務体制、また自分の仲間の世話になりたくないと思っています、今まで私は救急車の世話になったことはありませんし、私の家族もありません。それでも私もいち住民です。もし大切な家族が緊急の状態になれば119番しますし救急要請します。大切な家族が緊急の時、救急車が40分来なかったら私はどうするでしょうか?こんなふざけた現実を許せないな…。本当に重症だったなら搬送開始まで40分なんて致命的です。さらに改めて説明しておきますが、この日、別に電車が脱線事故を起こしたわけでも、地下鉄に毒ガスがまかれたわけでもテロが起こったわけでもありません。この日はひどい日でしたが、これが今の救急隊をとりまく日常です。

 あ〜あ…これじゃ誰一人助かりやしないや…。

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