救急救命士たちの現実
診たくないから診察拒否
お話に入る前にお断りを。どの会社でも職種でも同じことだと思いますが、信頼を置ける人、尊敬できる人もいれば、そうでない人もいるものです。私たち消防官も信頼を受ける職業として住民のみなさんから高い評価を受けていますが、恥ずかしい話、ちっとも尊敬できない消防官、救急隊長、救急救命士がいるのもまた事実です。100人も人がいればそういう人もいるのが組織ってものなのでしょうが。信頼うんぬんの問題以前に放火で捕まった消防士だとか…。
社会的にわりと信頼の置ける職業と認識されている教師や警察官、医師などなど、私たち消防官もそうですが、そのほとんどが歯を食いしばって一生懸命その信頼に応えるために頑張っています。一部の信頼を裏切る行為が全体の信頼を損ねますが、本当にほとんどの人が一生懸命やっています。今回のお話は事実上診たくないからと診察拒否を行う医師や、それがすでに当たり前になっている病院のお話です。ほとんどの医師が歯を食いしばって私たちのために頑張っているというのは忘れないでお読みくださいね。
「診療に従事する医師は、診察治療の求があった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。」(医師法19条)(参考・法医学抗議 医師と法律)診察を希望する患者がいる場合、正当な理由なく、診察を拒否することは許されません。患者が医療を受けるのは権利であり、行き着くところは憲法に保障されている基本的人権だからです。建前上そうなっているのですが、建前と現実って言うのは異なっているのが世の中の常ってもので…。診察拒否なんて日常茶飯事、とても正当な理由とは思えない信じられない理由で救急隊からの連絡に「診られない」と事実上の診察拒否が行われることがあります。
現実の話、私たち救急隊が有限であると同じように、病院にだって受けられる患者の数、対応できる症状などは限界があります。
「今、医師は緊急の患者さんが入ってオペ中です、受け入れることはできません」「救急隊が3隊来ています、他の病院を当たってください」「病棟で急変があって今、先生や看護師は対応中です」など正当な理由は仕方がありません。医師が一人で診られる患者の数は限られます。医師が緊急オペ中の病院に傷病者を搬送しても、診てくれる人がいないのでは何もはじまりませんから。ところがありもしない「正当な理由」を用いて診察拒否をする病院があります…しかもいくつも…。ウソをつくということです。
いつだったかこんなことがありました。もう夜中も夜中…2時だか3時だかそんな時間です。酔っ払いを扱いました。
救急隊員「…という方なんです、今もかなりのアルコール臭がします。診察お願いしたいのですが」
看護師「分かりました、今、医師に確認しますから少しお待ちください」
カチャ…カチャカチャ…、電話のボタンを押す音が聞こえる。
看護師「先生、○駅前で酔っ払いですって、○救急隊から」
救急隊員(あ〜あ…看護師さん、保留ボタンが押せてませんよ、全部聞こえてますよ〜)
受話器を持っている看護師さんの声はばっちり聞こえてきます、で、少し医師の声も聞こえてきます。
医師「ええぇ〜!もうこんな時間だよ〜!…」
医師が何か言っているのがかすかに聞こえてきますが分からない。
看護師「断ります?」
救急隊員「看護師さん…聞こえちゃってるって…こんな夜中に酔っ払いなんて診たくないですよね)
看護師「理由はどうします?」
救急隊員(次はどこあたろうかな…)
看護師「病棟で急変処置中でいいですよね?」
救急隊員(はいはい…急変ですね…)
ガチャ…、電話の操作音、メロディが聞こえ始めた。
救急隊員(だから…今から保留ボタン教えても遅いってば…)
ガチャ…、また操作している。
看護師「あら?何かおかしいわね?救急隊さん?」
救急隊員「はい、救急隊です」
看護師「お待たせしました、ごめんなさい」
救急隊員「はい、分かりました、病棟で急変なんですね?」
看護師「え""…」
救急隊員「看護師さん、次はお願いします、うちは○救急隊です!○救急隊ですから!次はよろしくお願いしますね!」
看護師「はい…、分かりました…」
救急隊員「失礼します」
はぁぁ…、看護師さんとケンカしたって何もいいことないですからね…。ひとつ貸しでも作っといた方がずっと賢い!これが現実です…。
さらにこんなこともありました。
救急隊「患者さんお願いです」
警備員のおじさん「はい、患者さんお名前からお願いします」
救急隊(だから…警備員のあなたに言っても分からないじゃない…。先生に繋いでほしいな…)「…と言う患者さんです」
警備員のおじさん「はい、分かりました、先生に伝えますから少しお待ちください」
救急隊「はい、分かりました」
ピロピロロン!♪〜ピロピロロ〜ン♪(電話の保留音)
救急隊(遅いな…まだかな?)
警備員のおじさん「…救急隊さん」
救急隊「はい、受け入れいかがでしょうか?」
警備員のおじさん「ごめんなさいね〜、今先生を探しているんですけどどこ行っちゃったのか?もうちょっとお待ちくださいね」
救急隊「そうですか…、分かりました」
ピロピロロン!♪〜ピロピロロ〜ン♪(電話の保留音)
救急隊(どれだけ待たせてくれるんだよ!まったく…)
7,8分?もっと待たされたでしょうか?救急隊としても診てくれるならすぐに搬送するし切るに切れない。ダメならダメですぐ断ってもらった方がすぐに次に当たれる。7,8分あれば2,3件の病院に当たれるんだけどな。
警備員のおじさん「救急隊さん」
救急隊「はい、いかがですか?」
警備員のおじさん「悪いけどね、先生がどこ行っちゃったのか?見つからないんだ、他の病院を当たってもらえますか?」
救急隊(あ〜あ…おじさん本当のこと言っちゃったよ…)
いつもならバカバカしいなと思いつつも何を言っても無駄なので「はいはい」って言って次を当たるのですがこの時は確か、傷病者のかかりつけの病院だったのです。さらに一番近い病院、この病院にはカルテもあるし傷病者にとってもベストであるだろうとこの病院に電話したのでした。さらに深夜で疲れていたこともあり、ちょっとイライラしていたのかもしれません。
救急隊「救急病院が医師が見つからないから診られないってちょっとおかしいんじゃないですか?」
警備員のおじさん「そんなこと言ったって診るか診ないかは先生が決めることですから、先生が見つからないんじゃ仕方ないでしょ」
救急隊(ダメだこりゃ…話にならないや)「そうですね、他の病院を当たります」
警備員のおじさん「はい、すみませんね」
「医師が見つからないから診られない」救急病院がこう言って断るのです。とんでもない話ですが、仮に看護師さんが電話に出ていたのならまさかこのようには言わないでしょう。「病棟で急変」だとか「処置中で手が離せない」と「正当な理由」を使うはずです。医師がどこにいるか分からない…、傷病者の家族になんて説明すればいいの?そんな本当の事とても言えない…。警備員のおじさんは「正等な理由がなければ診察拒否をしてはならない」と言う原則も知らないと言うことです。正等もなにもありませんね、医師に連絡がつかないんだから…。さすがにこういう病院は少ないですけどこの病院だけじゃありません。他にも似たような病院はあります。
さらにまだあります。私たちの町の救急隊には搬送先病院端末と言うのがあります。大都市の救急隊だけに搬送先の病院もたくさんあります。その数ある病院で、今、どの病院にどの科目を診られる先生がいるか表示するシステムです。
救急隊員「隊長、どうします?整形外科で診察可能は次に近いの○病院ですけど…」
救急隊長「○病院か…端末はOKになっているんでしょ?」
救急隊員「なってますけど○病院ですよ」
救急隊長「ダメもとでかけてみようよ、端末OKなんだからさ」
救急隊員「分かりました」
○病院へ連絡。
救急隊員「…と言う患者さんなんですがいかがでしょうか?」
看護師さん「今日の当直の先生は内科専門ですよ、それって整形外科の先生じゃなくて大丈夫ですか?」
救急隊員「そうですか、整形外科も受け入れ可能になっていましたのでかけさせていただいたんです」
看護師さん「一応、先生に聞いてみますね」
救急隊員「はいお願いします」
看護師さん「…救急隊さん、先生に確認しました。やっぱり無理ですって、整形外科医のいる病院に搬送してください」
救急隊員「はい分かりました」
この病院は常に、救急隊の端末表示がほぼ全科目診察可能になっている病院です。当直の医師が何から何まで診られる訳ないのですがそうなっています。これはなんでも院長の方針で、どの先生が当直になっている時もそうしないといけないのだそうです。院長としては病院経営があります、医師たるものとにかく救急隊の搬送してくる患者さんをまず診るべきだとの考えみたいですが、現場の医師はそんなことできる訳ないだろうとただ端末だけが診察可能になっているのです。せっかくのシステムがまったくの無駄になっています…。現場の医師も端末を診察可能にしておいたって「診られない」と断ればいいと言う前提がある訳です。科目外は正当な理由には当たらないはずなのですがね…。
私たち救急隊にとって、そして何より傷病者にとって辛いのがなかなか搬送先病院が決まらないことです。傷病者やその家族とのトラブルで多いのも搬送先病院がなかなか決まらないことに発端があることが多いです。救急車で緊急に病院に行こうと思って119番通報したのに救急車に乗ってからなかなか救急車が出発しないのですからイライラしてしまうのも分かります。いつだったか、「救急車には病院に診させる権利はないの?なら救急車の意味ないじゃね〜か!とっとと運べよこの野郎〜」と私たちをののしり続けた酔っ払いがいましたが彼の言うことも一理あります。救急隊は119番されれば何があろうと駆けつけなければならないのですが、受ける病院は「診たくないから診ない」がまかり通っているのです。
こういった現実があるため救急隊の活動時間が伸びてしまうのです。ホームレスや精神科疾患をお持ちの傷病者を扱った場合、10件、20件当たっても受け入れ可能な病院が見つかりません。どこかの隊なんて40だか50件、3時間も受け入れ先が見つからなかったなんてことがありました。私も2時間近く受け入れ先の病院を探したことがあります。大都市の救急隊員ならこんな話、嫌気が差すほど持っています。救急車は緊急車両なのか救急隊員ですら疑問を感じてしまいます。救急病院の整備、高度医療のシステム確立、医療の進歩と同じく社会のシステムも進歩してきました。が、実は現場では「診たくないから診ない」と言うシステムうんぬんよりずっとずっと以前の問題がまかり通ってしまっているという現実があるのです。
こういう事をする病院や医師に対して泣いているのは救急隊、そしてもちろん患者さん、さらに忘れてならないのはまっとうに頑張っている医師です。いつだか20件、いや…30件くらい断られたでしょうか、病院を探して探して、車内収容から病院決定まで1時間以上かかった事案です。さらにそれだけ探してようやく診てくれることとなった病院です。夜中に救急車でも30分以上の道のりを搬送しました、距離にして20キロくらいあったと思います。私はその病院に初めて行きましたが、その周辺救急隊には有名な病院です。「ともかく診てくれる」と。
医師「大変だったね、20キロくらいあるの?」
救急隊長「そうなんですよ…もうどこも診てくれる病院ないんです…先生ありがとうございました本当に助かりました」
医師「私も本音言うともう休みたいんですけどね…うちは院長の方針で救急の患者さんはとにかく診ることになってまして、現場の医師もそれを守っているんですよ。今日も救急隊を20件も受け入れてます。お互い寝られないでたいへんだけど頑張りましょう」
救急隊長「そうですか…、お疲れのところすみません。でも先生、またお願いします」
「診たくないから診察拒否」をする病院があるのも事実です。が、そんな事実を知っていながらも、それでも頑張ってくれている医師がいるのも事実です。マジメに一生懸命やっている人が貧乏くじを引いているみたいで疑問を感じずにはいられませんが…。
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