救急救命士の仰天現場 パラメディック119~すべては救命のために~

パラメディック119-すべては救命のために-
救急隊員たちの現実

パラメディック119救急隊員たちの現実ダメ…事の重大さが全然分かってない up data 2008.5.20

ダメ…事の重大さが全然分かってない

 いつも特に救急救命士のため息現場の中でお話しているように救急車が出場していく現場の中にはまさにため息の出るような不適切な利用が多数あります。そんな中でも119番指令を受けた段階でこれは不適切な要請なのではないか?指令内容から首を傾げてしまうようなものもけっこうあるものです。そんな現場に行くとやっぱりため息がこぼれてしまうような事案である、そんなことばかりです。一部消防本部で現場、または通報段階で救急車の必要がないと判断できるものをトリアージ(選別する)という試みがスタートしています。今日はこの選別がいかに難しいか、そして怖いか、痛感させられた事案を紹介します。

 消防署に出場ベルが鳴り響きました。「救助活動、○消防隊、○救急隊出場、○町○丁目…Kさん方、高齢の女性は浴室から脱出不能、なお付加する情報があります」との内容、消防署の指令台がから消防隊長に付加する情報が伝えられました。
消防隊長「はい、はい、ええ…、それは救助活動なんでしょうか?はい…了解しました」
司令室と何やら話している消防隊長、苦笑いを浮かべている。出場の準備を整えた消防隊、救急隊員たちが付加内容を待っていました。
消防隊長「お風呂に入ったおばあさんが浴槽から出られないから出してほしいって要請だってさ。閉じ込められているなんて事実はないって」
救急隊長「何それ?救助なの?救急隊も必要なのかね?」
救急機関員「自分で風呂に入ったおばあさんが出られないから出してくれで俺たちが出て行ってたらキリがないでよな!」
救急隊員「消防じゃなくて介護のジャンルですよね…」

 現場到着
Kさんのお宅は3階建てのお宅でした。玄関に要請者の旦那さんが案内に出ていました。Kさんのお宅は何か昔、商売をされていたようで1階は作業所のようになっており、もうずいぶんと長いこと使ってなさそうな工具などがたくさん置いてありました。2階から上が住居になっていました。Kさんご夫婦は二人とも80歳を過ぎたご高齢、この家でふたりで暮らしているとのことでした。
旦那さん「すみませんね、妻が風呂に入ったはいいけど出られないって言うんですよ、私では出してやれなくてね」
消防隊長「浴室にいるんですね?案内してもらえますか」
旦那さん「はいはい」
要請者の旦那さんも大分ご高齢なので足取りはとぼとぼです。
救急隊長「旦那さん、確認させてもらいますけど、奥さんはお風呂から出られないのはご病気とか怪我をしたからじゃないですか?」
旦那さん「いえ、もう年でね、足腰が弱っているんだ」
救急隊長「そうですか」
救急隊員(やれやれ…)

 傷病者接触
消防隊長「いいですか?浴室に入りますよ」
Kさん「ええ、いいですよ~」
元気な声が聞こえた。Kさんは女性です、さすがに一声かけなければ浴室には入っていけません。Kさんは半分くらいお湯の入った浴槽に全裸で座っていました。
救急隊長「Kさん、ごめんなさいね、裸なのに、中に入りますからね」
Kさん「ええ、どうぞどうぞ、すみませんね」
消防隊長「どうしちゃったのKさん、出られなくなっちゃった?」
Kさん「ええ、もうなんか出られなくなっちゃってね、助けてもらえば出られるから大丈夫」
消防隊長「それでは消防隊員が両脇から支えるから浴槽から出ましょうか」
Kさん「はい、すみませんね~」
旦那さん「申し訳ないね、私じゃとても出せなくってね」
消防隊長「はい、それでは持ち上げますよ、Kさんガンバって、ほら、もうちょっと踏ん張って」
救急隊員(あれ?おかしいぞ)
この消防隊長、救急資格者で時々、救急隊にも乗る方です。
消防隊長「ちょっと待て、持ち上げなくていい、もう一度浴槽に座ってもらおう」
救急隊長「観察しよう」
消防隊長「ええ、その方が良さそうですね」
救急隊長「ねえ、Kさん、左側に力が入らないの?」
Kさん「ええ、なんかそうみたいです」
救急隊長「私と握手はできる、同じ力で私の手を握ってみて」
Kさん「はい」
救急隊長「やっぱり左手の方が弱い…」
救急隊員「バイタル測定しますね」
救急隊長「Kさん、治療中のご病気とかありますか?」
Kさんは左下肢に麻痺がありました。力が入らず浴槽から出られなかったはずです。ずいぶん昔のことになるそうですが脳梗塞を患ったことがあり、今も血液がサラサラになる薬を服用しているとの事でした。
救急隊長「機関員はA病院に連絡して、消防隊は搬送を支援して」
消防隊長、救急機関員「了解」
救急隊長「旦那さん、奥さんすけどね、病院にお連れしますよ」
旦那さん「え、出してくれれば良いですよ」
救急隊長「旦那さんね、奥さんは左の下肢が麻痺しています。昔もなったことがありますね?脳梗塞が疑われます」
旦那さん「あらら、そうですか~」
消防隊長「旦那さん、病院に行く支度をしましょう、奥さんは私たちがお連れするから、戸締り、火の元、あと保険証とか、奥さんは裸だから着る服も出してあげてください」
旦那さん「え、ああそうだな」

 車内収容
Kさんをサブストレッチャーで搬送、救急車に収容しました。以前、脳梗塞でかかったことのあるA病院も実はもうずいぶんと前の話でかかりつけとは言い難い状態でした。それでも過去、入院し治療してもらったこともある方と言うことで受入れてもらえることとなりました。病院も決定した、さあ出発って段階なのですが、なかなかやってこない旦那さん。
救急隊長「旦那さん何やっているんだろう?」
救急隊員「遅いですね、私が見てきます」
なかなかやってこない旦那さんを呼びに行こうと救急隊員は車外へ、Kさんの玄関部分で消防隊長が何やら大きな声を出していました。
消防隊長「旦那さん、そんなのいつでも良いじゃない、病院に行くことの方が先立って!」
旦那さん「いや、持っていないと困るから」
救急隊員「A病院に決まりましたよ」
消防隊長「了解、旦那さん、A病院で診てくれることになりましたよ、行きましょう」
旦那さん「待ってくれ、ないと困るんだ」
救急隊員「何を探しているんですか?」
消防隊長「親戚の連絡先を書いたアドレス帳があるんだって、それがどうしてもいるんだってさ」
救急隊員「旦那さん、A病院に行きますよ、行きましょう!」
旦那さん「待ってくれ、連絡先が分からないと困るから…。あった!あったあった!これがあれば大丈夫だ」
消防隊長「よかった、それでは行きましょう、戸締り確認してくださいよ」
旦那さん「あれ?えっと…鍵はどこにやったかな?」
消防隊長「旦那さん!さっきまで持っていたじゃないの!!」
旦那さん「そうだったよな?あれ?どこやったかな??」
また部屋の中をうろうろし始める旦那さん…。
消防隊長「…ダメ、事の重大さがちっとも分かってない、さっきからこの調子でさ」
救急隊員「そうですか…」
こんな調子で現場出発に時間を要してしまいました。

 病院到着
救急隊が思ったとおりKさんは「脳梗塞 中等症」でした。

 帰署途上
救急隊長「やっぱりだったな」
救急機関員「不適切な通報内容かと思いましたけど、やっぱり行ってみないと分からないものですね」
救急隊員「本当、特にあんな感じのお年寄りの場合、重篤な状態でも危機感なく通報してくることってありますもんね」
救急隊長「今のおじいちゃんも急病だって言っても全然分かってなかったもんな」
救急隊員「消防隊長がイライラしていましたよ」
救急機関員「でもやっぱりどんなにふざけた内容の通報だと思っても、行ってみないと何があるか分からないものだよな」
救急隊長「トリアージも良いけど怖いね、やっぱり…」

 もし仮に、私の勤務する町で通報時のトリアージが採用されており、今回のようなケースが選別される対象となり救急車、または消防署が現場に向かっていなかったのならいったいどうなっていたのでしょうか?

 この記事へのご意見・ご感想、追加、修正などなどをお寄せください。パラメディック119ブログ版・救急救命士の待機室にコメントを残すことができます。

最近の記事
コーナー

ソーシャルブックマーク
パラメディック119救急隊員たちの現実ダメ…事の重大さが全然分かってない