救急救命士の仰天現場 パラメディック119~すべては救命のために~

パラメディック119-すべては救命のために-
救急隊員たちの現実

パラメディック119救急隊員たちの現実救命士資格を持った新人消防士の苦悩 up data 2008.10.10

救命士資格を持った新人消防士の苦悩

 救急救命士資格を持った新人消防士のメリットと言うお話で、救急救命士となり消防官を目指すメリット、救急救命士として消防署に配属されるメリットなどをお話しました。一方でメリットがあればデメリットがあるもの。新人にして救急救命士という、消防の中の救急と言う一業務の最高資格を得ていた場合に生じる問題など、今日は救命士資格を持った新人消防士の苦悩についてです。

 救急救命士の資格を持った新人消防士の場合、いくら救命士だからと言っても消防官としては新人、いきなり救急隊員になることは少ないです。私が勤務してきた消防署ではだいたい半年から1年は消防官として最も基本にある「火消し」業務、ポンプ車の隊員になることが多いです。他の消防署でも同じようにしていることが多いようです。

 ただ、ずっと救急車に乗車するチャンスがない訳ではありません。当サイトでもいつもお話している通り、大都市部の救急隊は出場が多くかなりの激務です。救急隊員たちの労務管理のひとつの対策として、救急資格者による交代乗務が行われています。予備救急隊員として、正規救急隊員の代わりに救急車に乗るチャンスがけっこうあります。

 ずいぶんと昔のお話です。当時の私は救急救命士資格を持たない正規の救急隊員でした。朝出勤し事務室に行くと、出場先から帰署したばかりの救急隊があくせくと事務処理をしていました。
新人「隊長、これはどうすればいいんでしょうか?」
救急隊長「ああ…それはこういう風にやるんだよ」
新人「分かりました。あの、これは…?」
救急隊長「これはな…」
まさに手取り足取り隊長が新人を指導しているのです。
私「おはようございます」
救急隊長「おはよう!」
新人「おはようございます!!」
新人は誰よりも元気に挨拶、どの職場でも基本ですね。
私「ついに乗せてもらったんだ」
新人「はい」
私「どうだった?救急隊は?」
新人「すごく大変だって改めて思いました…」
救急隊長「まだまだ学ぶことばっかりだよな?」
新人「…はい。僕が現場で全然通用しないことが良く分かりました…」
救急機関員「おい!早く飯食っちまえ!また出場かかったら食べられなくなっちゃうぞ!」
新人「はい!」
救急機関員「飯を早く食べるのも救急隊の仕事だぞ」
新人「はい、分かりました!」
救急機関員「隊長も、冷めちゃいますよ」
救急隊長「分かった」
救急隊長と新人消防士が食堂に消えていきました。
私「おはようございます」
救急機関員「おはよう!」
私「昨日も寝られずの救急隊ですか?」
救急機関員「うん。…最悪だった。」
私「それはお疲れさまでした」
救急機関員「今日は予備隊員でアイツが来ただろ、もう疲れちゃったよ…」
私「救命士とはいえ救急隊員としての現場は初めてですもんね」
救急機関員「仕方ないけどさ、何から何まで手取り足取りだよ、全然使えないの」
私「そうでしょうね」
救急機関員「それでも救命士だもんな、どう思う?」
私「でも救命士だからって現場でいきなりできるってことはないでしょ、現場なんて資格で回っている訳じゃないですからね~」
救急機関員「オレは正直、救命士だからって現場でまだ全然使えないヤツのために救急を降ろされたりしたらたまらないね」
私「そうならないように私も早く救命士になれるよう頑張りますよ、実力つけて自分で自分のポジションを獲得しないと」
救急機関員「いいね~前向きで、でも正直、面白くない気持ちはあるでしょ?自分より経験はない、現場でできないのに救命士なのかよって」
私「そうですね、まったくないと言ったら嘘になりますね。免持ちの新人のために救急を降ろされたら嫉む気持ちも出てくるかもしれませんね。でも嫌がらせしたり意地悪したりなんて絶対しないですよ」
救急機関員「オレだってそんなことするつもりはないけど、いくら経験がないからって『お前は救命士なんだから』って言いたくなっちゃうこともあるよな」
私「そうですね」

 この新人の彼とはその後、何度と飲みに行く機会がありました。彼からもよく漏れたのは救急救命士資格を持った新人ゆえの苦悩でした。救命士なのだからと他の新人より厳しく接されることもあるし、中には心無い先輩だっているものです。嫉みからなのか?嫌がらせめいた言動などもあったみたいです。ただ彼はとても優秀で私から見ても、私などよりよっぽど早くモノになり、一端の救急隊員を務めているように感じました。実力をつけて現場で活躍できるようになれば誰も何も言わなくなるものです。救命士資格を持っている持っていないに関係なくそれは同じこと。私も救急隊員になりたての頃はまったく使えず、厳しい指導、泣きたくなるようなことは多々ありました。そんな度にチクショウと次は何も言わせないようにと奮起したものです。それでもやっぱりまた失敗して、また奮起して、その繰り返しです。いつの間にかとやかく言われなくなっていました。

 そしてこれは最近のお話です。私は救急救命士となり、立場も少し変わりました。朝、出勤すると隊員を務めていたのは免持ちで入ってきた消防士、やっぱりベテランの救急隊長に手取り足取り指導されていました。交代前の時間、昨日の活動の話や申し送り、雑談などをしていました。
私「お疲れ様でした、昨日もたいへんでした?」
救急隊長「まあ昨日はぼちぼちだな」
私「免持ちの彼はどうでした?まだ予備隊員になったばっかりですよね?」
救急隊長「まだまだだなぁ、でもアイツは一生懸命だし、謙虚だからいいよ」
私「そうですか、じゃあすぐに使える隊員になりますね、オレもうかうかしてられないや」
救急隊長「昔、アイツみたいな免持ちの消防士で生意気なヤツがいてよぉ…。言うことは一人前なんだけど現場じゃ使えなくってなぁ、オレはあんまり厳しいこと言う方じゃないんだけど『お前、資格があっても全然使えない』って言っちゃったことがあるよ」
私「それは新人としてはかなりヘコみますね」
救急隊長「ムっとした顔するんだよな、救命士なんだからってプライドはあるんだよ。でもオレたちの現場は資格うんぬんじゃないだろ?現場でできてなんぼの仕事だよな?」
私「そうですね~、住民は現場での仕事を求めてますからね」
救急隊長「免持ちの救命士もいいけどさ、消防官としては新米で現場経験なんてないんだから、やっぱり謙虚で先輩から学ぼうって姿勢が大事だよな」

 中には本当に優秀でいきなり現場でできちゃう免持ち救命士もいるのかもしれませんが、少なくとも私はそんな新人を知りません。救急救命士としての知識が必要な現場は多々ありますが、知識で回らない現場はもっとたくさんあります。この救急隊長が言ったように、資格があろうがなかろうが同じことです。現場経験のない後輩が謙虚で、学ぶ姿勢を持っていること、先輩にかわいがられることはどんな職場であっても大切なことだと思います。

 と、ここまで読むと免持ちの救急救命士は消防署で厳しく扱われるのではないかと不安に感じる方も多いのではないでしょうか。それは大丈夫!消防は体育会系な雰囲気のある職場です。免持ちだからどうこうではなく、新人ならみんな厳しくやられます。新人がたいへんで、泣きたくなるようなことがあるのはみんな同じことです。ただ、資格者としてそれなりの目で見られることは否定できません。女性救急救命士の活躍というお話でも似たようなことを書いていますが、救急救命士資格を持った新人消防士はまだそれほど多くなく、これから増えていくであろう新しいパターンの消防官です。免持ち救命士が即戦力の有望な人材と判断されるか、資格だけで使えないと判断されるかは自身の努力、活躍にかかっています。私の知っている免持ち救命士たちはすぐに現場で使えるようになる、即戦力になるようにと努力しています。私もうかうかしていられないと良い刺激を貰っています。

 こちらをご覧の将来、救急救命士になって活躍したい学生さん、今、みなさんの先輩たちが一生懸命道を切り開いています。今のうちに実力をつけて、免持ち救命士が即戦力になるというさらなる道を切り開いてください。救命士資格を持った新人消防士の苦悩は付きまとうかもしれませんが、現場に出れば皆同じ、~すべては救命のために~住民のために頑張るだけです。

 この記事へのご意見・ご感想、追加、修正などなどをお寄せください。この記事は現場経験を経て救急救命士となった私からの目線で書かれています。救命士資格を持った新人消防士を経て今、現場で活躍されている方々、私には分からない苦労話、救急救命士の資格を持っていたがゆえのデメリットもあったはずです。また、消防本部によっては免持ち救命士を意図的に採用しない方針のあるところもあるとか。そんなお話を是非とも聞かせてください。パラメディック119ブログ版・救急救命士の待機室にコメントを残すことができます。

関連リンク

免持ち救命士を意図的に採用しない方針の消防本部

最近の記事
コーナー

ソーシャルブックマーク
パラメディック119救急隊員たちの現実救命士資格を持った新人消防士の苦悩