救急救命士たちの現実
救急隊と病院との連絡体制
今日皆さんに知っていただきたいのは救急隊と病院との連絡体制についてです。私も救急隊員になるまでこんなことになっているなんて夢にも思っていませんでした。そして今もまだほぼ改善していない現実があります。「救急車って緊急のものじゃないの?」救急隊員ですら思ってしまいます。
車内収容。50代の男性Kさんは腹部の痛みを訴えての救急要請でした。ずっと健康でかかりつけの病院などもなし。近所の救急病院になんてかかったことのない方です。
救急隊長「Kさん、お腹が痛いということでね、内科の先生がいる病院に連絡しますからね」
Kさん「…は、はい、お願いします」
病院連絡。
救急隊員「救急隊です、患者さんのお願いです」
一番近くの救急病院、まずは警備員のおじさんが出ます。
警備員のおじさん「はい、患者さんのお名前から教えてください」
救急隊員(名前から?症状からだろ?…)「Kさんという男性の方です」
警備員のおじさん「はい、どうされましたか?」
救急隊員(あなたに言って分かるの?…)「はい、2時間前からの腹痛を訴えての救急要請です、特に左の下腹部痛を訴えています。意識は清明で呼吸は…なお、圧痛や反兆痛はありません」
警備員のおじさん「ちょ、ちょっと待ってください、今、看護師に代わりますから」
救急隊員(そうでしょ?最初から先生を出してよ…)「はいお願いします」
---電話の向こうでメロディが流れています、警備員のおじさんが今、電話を看護師さんに転送して私たちから受けた内容を説明しているのでしょう、効率がとても悪いですね…。
看護師「はい、お電話代わりました」
救急隊員「どうもお世話になってます。診察の方はいかがでしょうか?」
看護師「…はい?どんな患者さんなんですか?」
救急隊員(はぁぁ…やっぱりね、おじさん、分からないんだからとっとと看護師さんに繋いでくれればいいんだよまったく…)「はい、2時間前からの腹痛を訴えての救急要請です、特に左の下腹部痛を訴えています。意識は清明で呼吸は…なお、圧痛や反兆痛はありません」
看護師「そうですか…今、当直の先生に確認します、少しお待ちくださいね」
救急隊員「はい、よろしくお願いします」
---電話の向こうでメロディが流れています、看護師さんが今、電話の向こうで先生に説明しているのでしょう。もう…とってもとっても効率が悪いですよね…。救急車は緊急車両なんだけどな…。これでさっきの警備員のおじさんみたいに傷病者の状況までまったく伝えられていなかったらホントバカバカしいですよね…まぁさすがに看護師さんならそんなことはないかと思いますが…。
医師「はい、お電話代わりました」
救急隊員「どうもお世話になってます。診察の方はいかがでしょうか?」
医師「は?どんな患者さんか言ってくれなきゃ分かる訳ないでしょ?」
救急隊員(はぁぁぁぁ…、これで3度目なんですけどね…)「はい、2時間前からの腹痛を訴えての救急要請です、特に左の下腹部痛を訴えています。意識は清明で呼吸は…なお、圧痛や反兆痛はありません」
医師「私の専門は外科なんですよね、内科系も診れなくはないんだけどその症状じゃ内科の専門医のいるところに行った方がよさそうですから他を当たってください」
救急隊員「…そうですか、分かりました」
で、結局診てくれないのね…。最初から先生が出てくれたなら1分で話がつくのに…。効率が悪いのなんの…。この流れなら5分以上の時間を有します。こんなことを繰り返していれば2,3件病院連絡をすれば簡単に10分20分と時間が経ってしまいます。救急隊からの電話にまず出るのが医療従事者でない病院はこんな流れになることがけっこうあります。さすがにこの救急病院はひどいですが、似たり寄ったりの病院がいくつもあります。
一番多いパターンが当直の看護師さんが救急隊の電話に出る場合、この場合もまず看護師さんに一通りの流れを説明して、それから看護師さんが医師に診察できるかどうかをお伺いすることとなります。救急で働いている看護師さんはベテランの方が多く、医師が電話に代わってもまた1から説明するなんてことは少ないですが、それでもやっぱり効率は悪いです。私の町の2次医療機関、救急病院はほとんどがこのパターンです。
一番効率がいいのはER(緊急救命室 emergency room)制度を取り入れている病院。ERはアメリカのドラマでも話題となりご存知の方も多いかもしれませんが、簡単に言えば、「どんな症状の患者でもいいから連れてきなさい」と言うことです。救急隊としてはこんなありがたい制度はありません。どの科目に連れて行くべきか迷う必要がない訳です。とは言うもののさすがにそこまでは進んではおらず、実際は救急隊からの直通電話を常に医師が持っていてくれる程度に留まっているのですが…。それでも電話すれば必ず医師が出てくれる病院はたいへん効率がいいです。
救急隊員「…という患者さんなのですがいかがでしょうか?」
医師「そっか…う〜ん、内科でも診られるけど緊急オペになると今、オペ室入っちゃったから難しいんだよな…」
救急隊員「そうですか、先生、どうしたらいいでしょうかね?」
医師「そうだね…ひとまずうちに連れてきてもらおうか、もしオペ適応なんかなら転送になるけどその旨はよく患者さんに伝えておいてよ」
救急隊員「分かりました、先生、今患者さんに説明しますから少しお待ちください」
直接医師が電話に出てくれれば話が早いし、救急隊も直接アドバイスを貰ったり判断してもらったりと本当に助かります。
どこの病院もせめて救急隊からの直通電話を当直の医師が持っていてくれればいいのですが、現実、こんな病院は数えるくらいです。現在、全国的にこのER制度を取り入れようとする病院が増えてきています。が、それができるのは本当に一部の大病院だけ。私の町も大都市ですが、医師が救急隊との直通電話を持っている病院は本当に数える程度です。119番、迅速な出場、迅速に傷病者の下に駆けつける。これは私たちの努力でできることです。ただ救急活動は傷病者を医師の下に送り届けて完結します。迅速で的確な容態観察、救急処置、車内収容、そして病院連絡…、今の状況ではここで迅速が止まってしまう。消防だけの努力でできることではありません。どうすればいいのでしょうかね…。
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