救急救命士の仕事
救急車搬送パンク寸前!?
2006年3月9日、朝日新聞の一面にこんなタイトルの記事が掲載されました。「救急車搬送、パンク寸前 重傷者を優先、検討」記事によると総務省消防庁が近年の救急出場要請数増大の対応策として119番通報を受けた時点、又は救急隊が傷病者に接触して緊急性がないと判断した場合は搬送しないことも可能とするように制度を見直すというものです。記事からの抜粋では「搬送されたなかには、転院や軽いけがなど、民間の患者搬送車やタクシーなどで対応できる例も少なくない」「従来の着電順では重度の患者の対応に影響が出かねない状況になってきた」ためこのような方針を固めたとしています。
今回導入に向けて本格的に検討されたとされるトリアージ(患者の選別)ですが、それが必要なのは特に大都市です。東京や大阪では一隊あたり年間4000件を超える出場件数なんて隊があります。1日平均が12件なんて隊では1日の半分以上もの時間出っぱなしで救急車がない状態になっているということです。119番通報しても救急車がすぐに来ないのはある意味当たり前です、ないのですから。私の隊は年間4000件は出場しませんが3500件前後の出場件数があります。このサイトでも紹介させてもらっている通り、現場にいる私から言わせてもらえば限界なんてとっくに超えていてパンク寸前なんて表現じゃ生ぬるいのが現実です。心肺停止患者の所に十分以上もの時間をかけて駆けつけるのです。「救命率の低下にもつながりかねない」??このままじゃ救命率が低下して当たり前です。後手後手と言われる行政がこのように患者の選別というリスクの伴う対策に動き出したのはとっくにパンクしているからとも言えるかもしれません。
このトリアージ、患者の選別はずいぶん昔から話には聞いたことのある対策です。本当に必要な人が必要な時に利用してもらわないとパンクしてしまう。そんなことはみんながみんな知っています。でも今までず〜っと選別すればいいって話は出ても具体化しなかった、現実化できなかった、何故か?当サイトの狼少年に殺されるというお話を読んでいただければよく分かると思います。誰が選別するの?お医者さんだって病院の診察室でCT、レントゲンなど検査を経て治療の方針や入院の必要性を判断するんです。電話を受けた段階で明らかに軽症、タクシー代わりの救急要請なんてのが多々あります。しかしその中の数千件に1件、本当に重傷者が隠れていたら誰が責任を取るの?現場で傷病者に接触した救急隊員が搬送すべきかどうかを判断する。お医者さんに比べればたかが救急隊員にしかも限られた資器材しかない救急車で何が分かるのでしょうか?現在、救急車じゃなくても問題ないって思える出場は半分以上です。しかし搬送の必要なしと判断した傷病者の中にお医者さんも検査を経てやっと見つけた命に関わる重要な失陥があったのなら誰が責任を取るの?
今までこの通報時点でのトリアージ、救急隊員によるトリアージが具体化しなかったのはこういったところが大きく影響しています。99%救急車の利用を履き違えたタクシー代わりの要請だって思っても、何かがあったら…。通報を受けた人だって守る家族がいるし責任を追及なんてされたくない、だから救急車を出場させる。出場した私たち救急隊だって観察を経て99%大丈夫だって思ったってやっぱり搬送する。仮に患者を選別する権限が与えられたって何かあっての責任があるのですからなんでもかんでもやっぱり搬送すると思います。
この総務省消防庁の対策に伴い、3月10日「救急患者の選別まず現場で導入」という記事が掲載されました。日本最大の消防組織、東京消防庁が全国に先がけて導入するとのことです。しかしやはり通報時点のトリアージは困難だろうということでとりあえずは今まで通り出場させて現場の救急隊員たちに判断させるということのようです。まだまだ試行錯誤の段階でどのように制度化、具体化するのか分かりませんが、課題は山積みでしょう。現場でのトリアージの責任が救急隊長にあったのなら、私が隊長ならおそらく全て搬送します。私にも守る家族がいますし、何より救急車の限られた資器材では判断できないからです。それが狼少年のじいさんであってもです。いかにも公務員らしい意見かもしれませんけど私は卑怯でしょうか?私は現場の末端の隊員です、人の命の関わる重要な責任なんて取れない。私が仮に消防組織の大幹部だってやっぱり責任なんて取れない、人の命ですから。人の命が関わるかもしれないことを判断するんです。1%未満の可能性でもより安全によりよい方法を選択するのは当たり前では?
でもそんなこと言っていたらちっとも前に進まない。これまでそうだったようにまたもこの対策が具体化しないで終わってしまう。リスクはありますが、必要な人が必要な時に利用できないっていうもっと大きなリスクがどんどん大きくなっています。ここで誰かがやらなくちゃいけない。助けられたかもしれない命が今もまた助けられずにいる。こんなことを続けていちゃいけない。トリアージして緊急性、重傷度共になしと判断したらタクシーや民間救急車で病院に行ってもらうなど考えられる要素はたくさんありそうです。どのように具体化するかは分かりません。結局苦しむのは現場の救急隊員たちなのかもしれません。しかしこの対策が形になって救急車が必要な人が必要な時に迅速な救護を受けられるかつては当たり前だった頃のようになることを切に願うばかりです。
この記事へのご意見・ご感想、追加、修正などなどをお寄せください。パラメディック119ブログ版・救急救命士の待機室にコメントを残すことができます。
|