救急救命士の現実 パラメディック119〜すべては救命のために〜
パラメディック119救急救命士の仕事みんな人殺し〜救急隊の出場状況〜 Last up 2006.4.20

救急救命士の仕事
みんな人殺し〜救急隊員の出場状況〜

 救急隊の出場状況は特に都心部で毎年うなぎ登りです。救急隊の隊数は基準が設けられており、それは人口に対して決まっています。地方自治体の人口によって多少違いますが、一例として人口15万人を超える区域では概ね6万人に対して1台の救急隊が必要とされています。つまり都心部の救急隊は人口がそれだけ多いわけですから隊の数も多いわけです。地方都市は救急隊の数も少ないですが、もちろん人口も少ない訳です。都心部の救急隊も地方の救急隊もカバーする人口は大差がない訳ですから出場件数はそこまで変わらないはずなんです。

 ところが都心部の救急隊の出場件数ばかりがハンパじゃなく伸びている。都心部は人口密度が高いわけで、怪我する人や事故なんかも多い。歓楽街などではトラブルなども多く出場件数も増える。確かにそういった要因はありますが、それにしてもそれだけじゃとてもはかりきれないほどの出場件数を都心部の救急隊はこなしています。(東京消防庁の救急出場件数大阪市消防局の救急出場件数)私の救急隊では平均1日10件の出場があります。1件の出場の平均時間が約70分ですから1日の半分救急車に乗りっぱなしっていう状況です。もっともひどい東京や大阪の救急隊では1日平均13件の隊とかね。私の隊だって平均で10件なんですからひどい時には14件とか15件なんてこともあります。24時間で17時間以上救急車に乗りっぱなしって事もありました。

 消防官の勤務サイクルは朝8時30分から翌朝の8時40分までの24時間10分です。14,5件の出場の場合にはもちろん一睡もしないで24時間のうち17時間以上救急車に乗りっぱなしになります。ハッキリ言って集中力を保って機敏に迅速な活動なんてできなくなりますよ。一睡もしないで18時間働きっぱなしの救急隊が夜中の3時、4時頃には活動していることがあるわけです。年末など救急要請が増える時期の歓楽街周辺の救急隊なんて、ほとんどがこの状況です。まともに食事や休憩を摂っている隊なんていないものだと思った方がいい。また別のお話で書きますけど、消防官は警察官や看護士さんのように夜勤や順夜勤のような勤務体制はありません。朝から朝までの勤務なんです。で、最近では24時間を前半後半で分けて交代乗車したりしていますが、基本的には3名で24時間10分、救急隊員をやります。あなたの家族が夜中に心肺停止になった時、助けに来る救急隊はもう10数時間ろくな休憩も食事も摂らずに働きっぱなしで駆けつけることがあるということです。

 なんでこんなことになるのか?統計学的にも原因はハッキリしています。都心部での救急要請はうなぎのぼりですが、毎年あまり変わっていないもの。要請数の打ち分けです。中等症以上の重症、重篤、死亡の占める割合はあまり変わっていないのです。伸びているのは軽症の数。地方都市じゃ救急車を呼べば近所総出の騒ぎになる。ご近所の目、ご近所に迷惑をかけたくない。それでもそんなこと気にしていられないから救急車を呼ぶ。地方の救急隊の方に話を聞いても、やっぱり「これは救急車を呼ぶなぁ」って症状の悪い方が多いようです。都心部の場合、お隣さん自体知らない。隣の人が誰なのか?顔も知らない。救急車呼んでも別に関係ない。現場で活動していて都心部のこういったところは嫌ってほど感じます。都心部ならではの風土なんでしょうか。こういった都会の状況が救急要請増大に相当大きく関わっています。「オレがちょっと気分が悪いから、タダだし救急車を呼んだら、その間に近所の子どもが心肺停止で死んだ。でもオレはその子知らないし関係ない。」これって都心部じゃ普通です。本当にこんな人ばっかりを扱うんですよ。こんな感じの人は、なんのモラルもなく本当簡単に救急車を利用します。タクシー使えばお金がかかるからね…。

 以前、東京の消防署にお勤めの救急隊長さんからお話を伺いました。インフルエンザがはやっている時期でした。
隊長「この前、東京23区の救急隊が何隊出場していたか知ってる?」
パラ吉「90%くらいですか?」
隊長「あまいね〜!すげえよ!100%全隊出場したんだよ」
パラ吉「そりゃすごいですね。事故にあったら終わりですね…」
東京って日本の首都ですよ。インフルエンザが流行る時期、年末の忘年会シーズンやお花見シーズンのアル中患者がたくさん出る時期、けっして事故には逢わない方がいいですよ。救急車は来ませんから、だってないんだもん。インフルエンザが流行る時期、都心部で1分1秒を争う大怪我をしたら?もう明らかですよね、死ぬしかないんです。東京に限らず日本の都心部はこういう状況なんですよ。もちろん今も。

 こんな状況にあることは世の中に全然知られていませんけど、大きな社会問題ですよね。近くの隊が全部出場ているからと20分かかって現場到着したら、今にも片足が落ちそうな血の海の交通事故だったなんてこともありました。やっぱり20分かかって駆けつけた傷病者は心肺停止状態だったこともありました。5分で病院に運べれば助かった、30分だから助からなかった。そんな事はだれにも分かりません。でも間違いありません!都心部では迅速な救護を受けられれば助かったかもしれない方がたくさん死んでいるんです。まさに今もそうです。

 決定的対策をとらない国が悪いのか?どうにかしない消防が悪いのか?助けられない救急隊員たちが悪いのか?簡単にタクシー代わりに救急車を呼ぶ人たちが悪いのか?こういう状況を伝えないマスコミが悪いのか?こういう状況を知らないひとりひとりが悪いのか?私が思うに私も含めてみんながみんな少しずつ人殺しです。人を助けたくて救急隊員になったのに、助けられたかもしれない現場に行く…、そして助けられないで死んでいく。都心部に勤める救急隊員のこの苦しみを少しでも分かってもらいたい。救急車を呼ぶとき、少しでいいから考えてほしい。いつだって救急隊が命の危機に瀕している傷病者の下へ、迅速に駆けつけ、迅速な処置で救命する。そんな当たり前だと思われていたことは、都心部では実は全然当たり前じゃないんです。

 当たり前のことを当たり前にさせてほしい。すべては救命のために。そのために救急隊員たちは働いているのだから。

 救急車の適正利用に関しては各消防局、地方自治体が頭を抱えているようです。特に都心部を中心としてですが全国的にモラルの低下がその大きな要因です。各自治体もその対策として以下のようなホームページやホスターなどで広報活動をしているようですがなかなか成果が挙げられていないのが現実です。救急車の適正利用について訴えている各地方自治体のホームページを紹介します。

千葉市消防局 救急車はタクシーではありません!
名古屋市消防局 イラストを使って分かりやすい。

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